食物アレルギー
特定の食物を「食べる」「触る」「吸い込む」ことで免疫が過剰に反応し、アレルギー症状を起こす疾患です。免疫や消化機能が未熟な乳幼児に多く、即時型食物アレルギーや食物アレルギーが関与する乳児アトピー性皮膚炎が代表的で、口腔アレルギー症候群や食物依存性運動誘発アナフィラキシー、新生児・乳児消化管アレルギーといった特殊型に分けられます。食物は成長や健康に欠かせないものですし、栄養素が不足しないよう十分に配慮した対応が重要になります。
食物アレルギーが関与する乳児アトピー性皮膚炎
生後1~3か月頃から湿疹が現れて治療を受けても改善しない場合、食物アレルギーが関与する乳児アトピー性皮膚炎を疑う必要があります。母乳に含まれるごく微量のアレルゲンによって発症する可能性も指摘されています。授乳の継続は可能ですし、ママが医師の指導の下で適切な食物除去を行うことで症状が改善する場合もあります。ただし、赤ちゃんに十分な栄養を与えるためにもママの食物除去は最低限に抑えるべきであり、医師による経過の慎重な観察と適切なコントロールが不可欠です。
基本的に問診や状態の確認を中心に診察し、それだけでは原因の特定が難しい場合は血液検査(特異的IgE抗体検査など)や皮膚プリックテストを行います。また、食物の除去試験、食物経口負荷試験などを行うこともあります。
治療ではスキンケアを基本に、皮膚状態に応じてステロイド塗布などを行います。
即時型食物アレルギー
ほとんどが食べてから30分以内に症状を起こし、触れただけ、吸い込んだだけで症状を起こすこともあります。主な症状には、蕁麻疹・咳・呼吸困難などがあります。乳児は5~10%、幼児は5%、学童期以降では1.5~3%に食物アレルギーがあるとされていて、年齢によってアレルギーを起こしやすい食物に違いがあります。
血液検査ではほとんどの場合診断できませんし、異常値が出たものを食べても症状を起こさないケースもあります。そのため、血液検査は目安を判断するために行い、丁寧な問診や食べたものの記録などから原因を絞っていきます。
アレルギーの治療では原因の除去や排除が基本ですが、過剰な食物除去は成長期の体に影響が大きいため、必要最小限の除去をお勧めします。また、特定の食品をたくさん食べることで誘発される場合には体調に合わせて摂取量を加減するようにしてください。
尚、高度な食物アレルギーの診断・治療が必要と判断された場合には、連携している専門医をご紹介いたします。
特殊型食物アレルギー
口腔アレルギー症候群
特定の食物を口にすると、口腔内にイガイガやピリピリした刺激、痒み、痛みを生じ、口周辺の皮膚に蕁麻疹などを起こします。症状を誘発する食物は、野菜、果物、大豆などが多く、花粉症に伴って発症するケースが多くなっています。これは、アレルゲンとなる花粉と似た構造の成分を持った食品に対して、アレルギー症状を起こしていると考えられています。スギ花粉症ではトマト、ヨモギ花粉症ではセロリやニンジン、ブタクサ花粉症ではメロンやキュウリなどが症状を起こしやすいなど、ある程度の相関関係が分かっています。
加熱すると構造が変化してアレルギー反応を起こしにくい傾向があります。ただし、加熱しても構造が変化しにくいものもありますし、大量に食べると重篤なアレルギー反応を起こす可能性もあるため、リスクのある食べ物についてしっかり知っておくことが重要です。
食物依存性運動誘発アナフィラキシー
アレルゲンとなる食物を食べただけではアレルギー反応を起こしませんが、食後に運動するとアナフィラキシーを起こします。アナフィラキシーとは2つ以上の臓器に即時型アレルギー反応を呈した状態(全身の蕁麻疹+腹痛、口周囲の発疹+喘息発作など)で、全身の血管が弛緩し血圧が低下した危険な状態をアナフィラキシーショック症状と呼びます。
主な原因物質には、小麦、甲殻類があり、激しい運動で誘発されることが多いのですが、軽い運動でも症状を起こす可能性があります。
ラテックス‐フルーツ症候群
ラテックスは天然ゴムに含まれる成分で、それに対してアレルギーがある場合、クリ、バナナ、キウイフルーツ、アボカドなどにアレルギー反応を起こすことがあります。天然ゴムのラテックスとこうした食品には構造がよく似ている交差抗原性があるため、発症するとされています。
アトピー性皮膚炎について
アレルギー反応を誘発する物質(アレルゲン)によって皮膚に直接的に作用するだけでなく、食物等を通して体の内部から皮膚の免疫環境を見出し、慢性的な皮膚の炎症を惹起する病態です。アレルギー反応による皮膚のかゆみから『掻き壊し』→『皮膚バリア機能低下』→『アレルゲンや皮膚の細菌による刺激』→『掻き壊し』という悪循環によって炎症が慢性化すると考えられています。アレルゲンとして有名なものは、環境因子ではハウスダスト、ダニ、カビ、ペットの毛・フケ・唾液、汗、食物では卵・牛乳・小麦などです。また直接的なアレルギー因子ではありませんが、間接的に免疫のバランス維持に大きく関わる因子としてストレスや睡眠、偏食は非常に重要です。
症状と治療
痒みを伴う湿疹が数か月単位で持続している場合にアトピー性皮膚炎を強く疑います。治療の要は先述した、『掻き壊し→バリア機能低下→アレルゲン・細菌による刺激』の悪循環を断ち切ることで、早期に炎症を鎮め、かゆみを抑えることが重要です。子ども、特に乳児の皮膚の再生能力は成人と比較してずば抜けており、かゆみを抑え、適切なスキンケアを行うことよって皮膚のバリア機能は自然と回復してきます。しかしこのような病態は再燃しやすいため、特に皮膚の保湿は症状が改善している時でもしっかり行うようにします。また、アレルゲン除去のために、掃除などの環境要因への対応も重要で、食物アレルギーが関与している場合には適切な食事指導も欠かせません。このような慢性湿疹にステロイド外用薬非常に速効性がありよく効きますが、すぐに止めると容易に再燃します。しかし、長期間のステロイド剤の使用は副作用の観点から問題になることがあり、ステロイド剤の『止め方』が非常に重要になってきます。湿疹のタイプや薬の効き方だけでなく、お子様を取り巻く状況は一つとして同じものはありません。当院ではスキンケアをはじめ、ご本人やご家族の生活スタイルに応じた湿疹指導に力を入れておりますので、お気軽にご相談ください。
スキンケアについて
よく泡立てた石鹸で優しくしっかり洗ってよくすすぎ、その後保湿剤を十分に塗ることが基本です。皮膚を清潔に保つことで余計な刺激を減らし、皮膚の状態を改善させます。保湿することで皮膚のバリア機能が改善し、痒みも起きにくくなります。こどもの場合には、爪を短く切って指を清潔に保つことも掻き壊し防止に役立ちます。また、乳幼児の場合は、よだれによる悪化を防ぐために、ワセリンで保護するなどのケアも有効です。汗や日よけ、虫よけなどの対策も、年齢やお子様の個性に合わせて行う必要があります。当院のスキンケア外来では、それぞれのお子様やご家庭にあったスキンケアを、小児科医と小児専門看護師にて時間をかけてご提案・ご指導をさせていただいております。お気軽にご相談ください。
入浴時の注意点
よく泡立てた石鹸、あるいは泡タイプの低刺激なボディソープを手に取って、手のひらで優しく、しっかり洗います。タオルやブラシはどれほど軟らかくても刺激が強く、皮膚が傷付いてしまう可能性があるため、必ず手のひらで洗いましょう。使用する石鹸は添加物のできるだけ入っていない低刺激な泡状ボディソープがお薦めです。脇、膝裏、耳や首、肘の内側など、しわになる部分も優しく、しっかり洗ってください。目に泡が入らないように注意しながら目の周囲をきちんと洗ってください。状態によっては、1回の入浴で2回、石鹸による洗浄が必要な場合もあります。
そして、石鹸を十分に洗い流すことも重要です。石鹸の成分が少しでも残っていると、そこから湿疹などが悪化してしまいます。しわになりやすい脇や膝裏などの部分も丁寧にこすらず洗い流してください。
入浴後はタオルでそっと水気を吸い取るようにして、できるだけ早く保湿剤をたっぷり塗ります。
保湿剤を塗る際の注意点
年齢や体格などによって使用する保湿剤の量はかなり異なりますが、軟膏25gチューブで大人の指の先端から第一関節まで取った量(Finger Tip Unit=o.5g相当)が大人の手のひら2個分の面積をカバーする量とされています。なお、ローションタイプでは1円玉が0.5g、泡フォームではピンポン玉大が1gとされています。保湿剤は薄く延ばしたり、部分的にまだらに厚く塗るようなことがないよう、上記の量を指標に均一に塗るようにしてください。
保湿力の高いヘパリン類似物質などの保湿剤が処方されますが、保険診療内では処方できる保湿剤の量が決められているため、不足する場合もあります。不足する場合は市販されている保湿剤や乳液で補うことも可能ですが、皮膚が過敏なお子様では市販薬でかぶれて染むことも散見されます。お子様のお肌に合った既製品や処方薬との組み合わせをご提案させていただきます。
喘息(気管支喘息)について
ダニやハウスダストなどに対して生じたアレルギー反応によって、気管支を中心とした気道に慢性的な炎症が起きている病態です。その結果、気道が狭くなり、ちょっとした刺激にも過敏に反応してヒューヒュー・ゼイゼイという喘鳴を生じる喘息発作を起こします。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーがあるお子様に多く発症しますが、アレルギー体質が指摘されていなくても発症することもあります。大きな発作を起こしたことがなくても、風邪の後などに咳の症状が長引く場合や夜や明け方に咳が出やすい場合、運動するとゼイゼイするなどの症状がある場合は気管支喘息が疑わしいので受診してください。また、乳幼児期にRSウイルスに罹患し、その後、風邪を引くたびにゼコゼコするというお子様はアレルギー的な要素があるかもしれませんので、受診をお奨します。
症状と治療
ちょっとした刺激で呼吸が苦しくなる、咳き込む、ヒューヒュー・ゼイゼイという喘鳴を起こすなどの症状が特徴です。就寝時に咳が続く、明け方咳き込んで目が覚める、ほこりっぽい場所で咳き込む、運動すると呼吸が荒くなる場合は、気管支喘息の疑いがありますので、早めに受診してください。また、咳でうまく話せない、顔色が悪いなどの症状があった場合は、危険な状態に陥っている可能性があり、すぐに医療機関を受診してください。
問診や血液検査、胸部X線検査、呼吸機能検査などで気道の状態やアレルギー体質の評価をして、適切な治療を選択します。治療には大きく2通りの考え方があります。一つはその時の発作を治すための治療、もう一つは発作を繰り返さないようにするための予防的治療です。発作の治療には気管支拡張薬の吸入や内服、そのほかにアレルギー反応や強い炎症を抑えるための抗ヒスタミン剤やステロイド剤を使用することがあります。一方、予防的治療は、喘息発作を起こす要因の排除(ダニやハウスダストなどの除去)、発作予防効果の高い長期管理薬(ロイコトリエン受容体拮抗薬・吸入ステロイド薬など)などが推奨されています。重要なことは、発作が起きなくなっても長期管理薬の投与を続けて数か月もしくは年単位で気道の炎症やリモデリング(繰り返す発作によって気管支が厚くなってしまう変化)をしっかり治すことが重要です。
尚、喘鳴や喘息発作を起こす他の疾患もあるため、別の疾患が疑われて精密検査が必要な場合には連携している基幹病院をご紹介しています。
アレルギー性鼻炎について
決まった時期にだけ症状が現れる季節性アレルギー性鼻炎と、1年中症状を起こす通年性アレルギー性鼻炎に分けられます。季節性アレルギー性鼻炎で最も知られているのはスギ花粉症ですが、イネ科の植物など他の季節に花粉を飛散させる様々な花粉症も存在します。通年性アレルギー性鼻炎は、ハウスダストやダニなど季節に関係のない様々な原因によって起こります。
症状
主な症状は、くしゃみ・鼻水、鼻づまりです。サラサラした水のような鼻水が特徴です。喉のイガイガする違和感、眼の痒みや充血、耳の痒みや詰まった感じ、乾いた咳、声のかすれなどを起こすこともあります。
診断と治療
基本的には問診と診察のみで大まかな診断が可能です。必要に応じて鼻汁中好酸球検査(鼻水を採取してアレルギーに関わる細胞が増えているかのチェック)や血液検査による特異的IgE抗体測定を行います。
アレルギー治療の原則は原因となるアレルギー物質(アレルゲン)の除去や回避ですが、花粉症をはじめとするアレルギー性鼻炎ではアレルゲン除去は現実的ではありません。治療としては主に抗ヒスタミン薬やロイコトリエン受容体拮抗薬などの抗アレルギー薬の内服を行います。重症度やご本人のライフスタイルに合わせて、適宜抗ヒスタミン剤やステロイド剤の点鼻薬の併用も行います。季節性アレルギー性鼻炎の場合、花粉飛散シーズンの少し前に内服治療を始めると、そのシーズンを比較的楽に過ごせる傾向があります。また、来院された際には鼻粘膜の浮腫を改善させる鼻処置を行うことも可能です。
尚、現在は、スギとダニのアレルギー性鼻炎では舌下免疫療法というアレルゲン免疫療法も可能になっています。年単位の治療が必要ですが、症状をほとんど起こさないようにできる可能性もあります。ただし、効果がないケースもあり、効果の有無を治療前に知ることはできません。
アレルギー性結膜炎について
結膜は、まぶたの裏側や白目を覆っている薄い膜です。花粉やダニ、ハウスダストなどのアレルゲンが結膜に付着して、眼の痒み、結膜の充血、涙、目ヤニなどの症状を起こすのがアレルギー性結膜炎です。花粉など特定の季節に発症する季節性と、ダニなどによって季節に関わらず発症する通年性に分けられます。
症状と治療
眼の痒み、結膜の充血、目ヤニ、涙、異物感などを起こします。特にかゆみの強い春季カタルでは、眼を強くこすり続けることで角膜の混濁や瘢痕化を起こし、強い乱視や視覚障害を起こす可能性がありますので、症状が強い場合には早の受診をお勧めします。痒みや充血、目ヤニが主な症状であれば、眼科でなくても小児科でも多くの場合で対応が可能です。
問診と症状で診断できます。治療は抗アレルギー薬の点眼を中心に行い、鼻炎症状やその他のアレルギー症状を併発している場合は内服治療を行うことが一般的です。花粉症の場合は飛散時期の少し前に治療を開始することで、そのシーズンの症状を軽減できる場合があります。春季カタルなどで症状が強い場合にはステロイド点眼薬・免疫抑制点眼薬・ステロイド内服などが必要になることもあります。状態により、連携している眼科をご紹介しています。